【設定】
主な登場人物
 
中原美鈴(高校1年生)
 
中園稜(高校1年生)

「おでんと俺どっちがいい?」
 おでん、と即答したかったあたしの唇は、開く前に、塞がれた

     愛■■□□□ 笑■■□□□ 現実的■■□□□
































おでんは好き。
沢山の具がひしめきあって、コトコトあったかいの。

でも昔は嫌いだった。
特におでんの大根。

味はしないし、熱くてすぐ食べれないし、だからと言って冷めるともっと美味しくないし。


だけど、あたしが小学校二年生の時、初めて中園家の晩御飯に招待されて以来、あたしは大根が大好きになっていた。

だって、中園家のアイツが、とても美味しそうに大根を頬張るから…












おでん










あたしが住むマンションの、隣の中園家は、毎冬二週間に一度の割合で晩御飯にはおでんが出る。

それが、もともとそうだったのかは分からないけれど。
中園家の母の和美さんは、おでんの日は毎回晩御飯に呼んでくれたんだ。

そして今日、朝学校に行く時に、ごみ捨て場で和美さんに会った時、和美さんが「今日おでんだからおいで」と言ってくれたから、あたしは、今年の冬三度目のおでんを、迎える。


夕方六時過ぎ、あたしはいつものように、自宅に帰宅後、すぐに部屋の電気をつけて、それから私服に着替えると、お風呂掃除をして、掃除が終わると台所へ行き、食器棚の下から小さな鍋を出し、鏡で化粧が落ちてないのを確認すると、部屋の電気をつけたままで、部屋を出て鍵を閉め、隣の部屋の中園家へと向かう。


「こんばんはー」

「あらおかえり美鈴ちゃん。今日の帰り寒かったでしょう。あ、鍋ちょうだいね」
「済みません、いつもありがとうございます」


あたしの母が、あたしが6歳の時に病気で死んでしまってから10年、あたしは父親と二人暮らしをしているのだけど、小学二年生の時引っ越してきてから、隣の中園家にはしょっちゅうお世話になっている。

そして、朝早く家を出て、夜遅くにしか帰ってこない父親が居ない間、あたしは家事をこなし、食事を作って父が帰ってくるのを待っているのだけど、その寂しい間、よく中園家に転がり込んで、まだ小さいヒロくんや、女癖の悪いアイツや、和美さんと、夜を過ごす。

そして、必ず中園家がおでんの日には、おでん食べにおいで、と誘われる。
それは、あたしが最後に食べた母の料理がおでんだったことを、小学二年生の冬、初めて中園家にお世話になった時もおでんで、それを見たとたん泣いてしまったあたしを、和美さんは知っているからだと思う。

あたしは泣いたあとのことは覚えていないけれど、後から、あたしが泣いた時、隣で頭をなでてくれたアイツに聞いた話、あたしは泣きじゃくって、母が逝ってしまう前の日のおでんの話をしていたという。

あの時のアイツはあんなに優しかったのに。

あたしは、靴を脱いで、台所で和美さんに一食分のおでんが入る小さめの鍋を渡すと、奥から出てきたソイツを見ながら、懐かしく思った。

「よっ☆元気?」

そう話し掛けてきたコイツ、中園家長男の稜は、小学生の頃は仲も良くて、毎日一緒に居た仲だった。
それなのに高校に入ってから女癖は悪くなるは、街で見かける時には必ず違う女と歩いてるはで、もう本当信じられないくらい変わってしまった。
たまに外で会う時にそうなんだから、学校ではどうやってるか分かったもんじゃない。

だけど、あの時、中園家でおでんを初めて食べた時から、コイツへの片想いはなかなか吹っ切れてくれなくて、自分でも何で今でもコイツのことが好きなのか、残念で仕方ない。

「元気って、アンタ昨日また街で女とイチャついてたでしょー。いい加減遊びまわるの止めなよー。相手の女の子が可哀相じゃん。」
 稜と学校が違うあたしは、いつだって、街で女とイチャつく稜しか見たことがなかった。

「ミスズチャンが彼女になってくれるっていうなら止めるよん♪」
 そう言う稜はいつだって気持ちが読めない笑いをしていて、結局あたしはその笑いに何度も振り回される。

「アンタなんかと付き合うくらいならサルと付き合ったほうが何百倍もマシだっつーの」

本当は8年間ずっと好きで、中学生の頃あたしから告白したけどフラれて、それでも好きだったのに、あたしはいつもそんなことばっかり言ってしまう。だけどそうやって憎まれ口を言うたびにコイツは
「何、中2の夏、アイス食べながら好きって言ったの誰だっけぇ〜?」
 と言って、あたしの告白した話を持ち出すんだ。

「だからあれ冗談だって言ってんじゃん。そんな話ばっかり持ち出していい加減ガキ卒業しなよ」
 あたしは、冗談なんかじゃなかったのに、あの時は心臓が破裂しそうなくらい緊張して言った言葉だったのに、その時の稜のセリフが、とても痛くて、とても悲しくて……あたしは早くこの事実を忘れようとしてるのに、稜はどういうつもりか、この話ばかりするから腹が立つ。

あたしは、稜に呆れた顔を見せると、奥の部屋でボール遊びをしているヒロくんの元へ駆け寄って、抱き締めて言った。
「ヒロくんはあんなお兄ちゃんになっちゃダメよー?」
 すると、まだ小学生にも満たないヒロくんは、持っているボールをころころと転がしながら、
「ヒロくん、みすずおねーちゃんのおとこのこになるよ!」
 と言った。

あたしは、稜もこんな時代があっただろうに……と思いながら、ヒロくんの頭をなでて、
「じゃあ、みすずおねーちゃんヒロくんのお嫁さんになっちゃおうかなぁ♪」
 と、言ったのだが、稜が割り込んできて「それはご遠慮いたします」と、言うのだから尚更腹が立つ。

するとそれと同時に、出口の方で、和美さんが
「美鈴ちゃーん?」
 と呼んだから、あたしはヒロくんを床に下ろし、わざと稜の足を踏んで、台所へ向かった。
「ばっか、おめー何すんだよ!!」
 どこのだれかさんが何か叫んだことなんて、あたしは知らない。


「わー!こんなにありがとうございます!」
 なぜか、いつもより沢山の具が、来た時に渡した鍋に入っていて、あたしはいつも以上に和美さんにお礼を言った。
「いいのよー。美鈴ちゃんのお父さんも毎日大変だろうけど、美鈴ちゃんも色々きついでしょう。いつもはお父さんの分だけだけど、多分これだけあれば美鈴ちゃんも家で少し食べられるかなぁって思って」

 いつも、おでんに呼ばれる時は、あたしはご飯の準備はしないけれど、それは和美さんに、お父さんの分のおでんを入れるための鍋を持ってくるように言われているから。おでんの時じゃなくても、しょっちゅう和美さんは色々なものを分けてくれるのだけど、あたしはきっと、このマンションに引っ越してきてなかったら、今日までやってこれなかったのではないかなぁってたまに思う。

それは、やっぱり、和美さんのおかげ。


「じゃぁあたし、台拭いてきますね」

分けてもらった分の鍋を、使われていない方のコンロの上に乗せて、布巾を手にすると、あたしは、さっきの稜とヒロくんが居る部屋に戻った。

台を拭いて、箸をならべ、取り皿を並べていると、稜が和美さんに呼ばれて卓上コンロを持って来て、すると和美さんは、大きな鍋を、そのコンロの上においた。

時刻は夕方6時半過ぎ。

いつもなら、ここで、みんなで座って、和美さんと稜と、ヒロくんとあたしでおでんを囲んで楽しい時間を過ごすのだけど、それは和美さんの一言で、いつもと違う時間になってしまった。

「そうそう、私今日町の会議があって、そろそろ行かなきゃいけないから、火傷しないように、気をつけておでん食べててね。」
 だけどそれは、今までも、何度かあったことだから、あたしはいつも通り、笑顔で了解をした。

「分かりました。じゃぁ、済みません。先に頂いてます」

別に、ヒロくんが火傷しないように気をつければ、あたしも稜も、好きなのをとって食べるから、気をつけることはヒロくんだけで良いと思っていたのに。


「いってらっしゃい」
 そう言って、三人で和美さんを見送ってから、あたしは、もっと気をつけることがあったなんで、この時知るはずもなかった。



「ヒロくんは何が食べたい?熱いから気をつけなきゃダメだよ?」

そう言って、あたしがヒロくんのお皿に幾種類かをとってあげて、あたしもおでんを食べ始めたのだけど、やっぱり稜とはケンカが始まってしまう。

「ちょっと、大根ばっかりとらないでよ。あたしも大根食べたいんですけど」

「そんなん早いもん勝ちじゃん。って、あーー!こら、テメー、人の皿から大根持ってくな!」

「何考えてんの!大根ばっかり皿に持ってる稜が悪いんでしょー」

「熱いから冷まして食おうと思ってたんだよ!」

「だったらせめて二切れずつにしてよ!一気に大根一本分くらい取るバカどこに居んの?!」

「ここに居るけど俺バカじゃねーし」

「あー!あたしのウインナー取ったーーー!」


あたしたちは、高校生にもなって、こんな会話ばかりしていた。
だけど、あたしはこの取り合いが大好きで、そして大根を頬張る子供みたな稜を見るのが好きだった。
勿論稜には秘密だけど。

でも、もう、この時から異変は染まってたのかもしれない。
稜が、向かい合って座っていた位置から、いつの間にかあたしの隣に来ていて、でもあたしはそれは、大根を取り返すためだと思っていた。
それが、間違いだったんだ。



そもそもあたしは別に、これからもずっと、こうやってバカやっておでんを囲んでいたかっただけだったし、街で見かける稜と居る女の子も、毎回違ったから安心していた。だって、同じ人を見たら、稜に本気で好きな人が出来たのだという事実に結びついてしまうから。

「そういえば昨日一緒に居た子?うちの学校の先輩だったよね?制服のネクタイ緑だったし。」

隣で、未だに大根を取り合いながら、あたしは昨日のことを思い出し、稜に言った。

「あー、そーいえば美鈴の同じ制服だったね?確か三年って言ってたよ。……何?ヤキモチ妬いちゃった?」

「は?何言ってんの、そんな無駄なもんヤク暇あったら餅でも焼いて食う方がマシ……っていうか!あんたさっきからあたしの皿のばっかり食べてるでしょ!自分でとって食べてよ!!」
 そう、返事をした時だった。
ヒロくんが、「おしっこー」と言って席を立ち、服の裾を握り締めてトイレに走って行った時。

その時ヒロくんについてトイレにでも行ってれば良かった。

……いや、それは行かないけれど。


稜が、突然、箸を持つあたしの手をつかみ、かと思うと、あたしの目の前に、箸に刺した大根を持って来て、意味の分からない質問をしてきた。
いつもの冗談だと思っていたのに。
それは、突然、起こった。

「おでんと俺どっちがいい?」

何がしたいのか分からなかったけれど、おでんを食べたかったあたしは、勿論いつものように、おでんと即答したかったのに。














あたしの唇は、開く前に、塞がれた。






「ちょっと……!あんった、何考えてんの?!」

あたしが事態を飲み込んだのは、ヒロくんが、トイレから出てきて、廊下を走る足音を聞いた時だった。

突き放した稜は、笑いながら、言う。
「うわー!顔真っ赤になっちゃって!美鈴ちゃんかぁーわーいーいー。めっちゃピュアー?」

本当に、何考えてんのコイツ。


今でも笑ってる稜がムカついて、突然冗談でキスされたけど、それはからかってるだけだったことが悔しくて、気付いたらあたしはぼろぼろ涙を流していた。


自分でも、何で泣いたのかは分からなかったけど。


「おねーちゃんどーしたの?りょうくん、おねーちゃんないてるよ?りょうくん、どうしたの?」
 トイレから戻ってきたヒロくんに、泣き顔を見られたあたしは、今度はそれを見たヒロくんが泣きそうになってるのに気付いて、とっさに涙を思い切り拭い、笑いながら、ヒロくんに言った。

「何もしてないよ。大丈夫。おねーちゃんカラシが目に入っちゃって、痛かったの。でももう大丈夫」
 本当は、カラシは使わないけれど、とっさに思いついたことがそれしかなくて、あたしは必死に服の袖で涙を拭い、ヒロくんに笑いかけた。


稜は、口を開かなかった。

「だいじょうぶ?からしがおめめはいったらかなしい?おめめいたい?だいじょうぶ?」
 近寄って頭を撫でてくるヒロくんがかわいくて、あたしは余計泣きそうだったけど、涙をこらえて笑顔を絶やさなかった。


だけど、何も言わずに見つめてくる稜の視線が痛くて、あたしはもう我慢が出来なくなって、結局、突然立ち上がると、ヒロくんも、稜も、お父さんの分のおでんが入ったお鍋も置いて、中園家の部屋を飛び出した。

「ごめんね、ヒロくん、おねーちゃんもう帰らなきゃ。」


立ち上がって走り出した後ろから、ヒロくんが、「どうしたの?どうして?どうして?」と言って追いかけてきたが、あたしはヒロくんが玄関の外に出る前に、中園家の玄関を閉めて、急いで隣の自分の家に向かうと、動揺して震える手を押さえながら、とにかく急いで鍵を開け、開いたと思うと部屋の中に入り、流れで鍵を閉め、その場に座り込んだ。


「何で?あたしのこと振ったくせに、何でこんなことすんの?…意味分かんない……最悪…」

あたしは、ついさっきヒロくんに頭を撫でられた感覚が忘れられなくて、しかもそれが、初めて中園家でおでんを食べた時に、泣いてしまって稜に撫でられた時のことを思い出させ、涙は溢れるばかりだった。




部屋の電気は、帰って来た時に寂しくないようにと付けて出て行ったのに、その明かりは逆に心を悲しくさせるばかりだった。










『コンコンコン』

ゆっくりと、だるそうに玄関のドアをノックする音が聞こえて、あたしは、すぐにそれが稜だと分かった。


ポケットに入れてた携帯の画面を見てみると、時刻は9時過ぎを映していた。
「俺だけど。今かーちゃん帰って来て。したら鍋持って行けってうるさいから。……鍋渡したら帰るから開けてくんない?」


さっき家に入ってから涙を流し続けたあたしは、気付かぬうちに、体育座りをして、寒い中、玄関で靴も脱がずに二時間もぼーっとしていた。
ドア越しに聞く稜の声が、どこか優しく聞こえてしまって、だけどあたしは、稜は本気で好きな人にはキスが出来ないことを知っていたから、それは自惚れでしかなくて、結局今もあたしは片想いだということを知らされてるみたいな感覚に陥っていた。


外は寒くて、勿論玄関も寒かったのだけど、いつまでも稜を外に立たせとく訳にはいかないから、あたしはゆっくりと立ち上がり、ドアの鍵口に手をかけた。
立ち上がり足が伸びる瞬間に、特に膝に激痛が走ったのだけれど、何度か足を曲げて、伸ばして、その感覚にも慣れた時、あたしはやっと、玄関の鍵を開けた。


きっと、本当に、稜は、鍋を渡したらすぐ帰ってしまうだろう。


「開けたけど」

自分でドアまで開ける勇気が出なくて、あたしはドア越しに稜に告げた。


回る玄関のとってを見ながら、するとその後に開いたドアの向こうに立つ稜を、あたしは見た。
だけど様子がおかしくて、稜は、鍋を持っていなかった。





また、からかわれたの?





そう、思った直後だった。
稜の体温を感じたのは。



「ごめん」

そう言って、稜は、また突然、今度はあたしを、抱き締めた。

だけど、それはもう、耐えられない。
あたしは、考える前に体が動いて、気付いたら必死に稜の体を何度も打ち続け、それでも稜はあたしを放してくれなかったから、頭を振りながら、必死に抵抗し続けた。


「いやっ!離して……!!」


だけど、どんなに抵抗しても、びくともしない稜に、結局あたしは諦めて、暴れるのを止めた。

その時正気に戻ったのだけど、あたしはまた自分が泣いている事に気付き、そして更に、稜が泣いている事にも気付いた。

「ごめん。ごめん…」

発する稜の言葉が震えていて、あたしはどうすれば良いか分からなかった。






「俺、美鈴が好きだよ」

沈黙を破ったのは、稜の方だった。
稜が、家の中に入ってきて、あたしを突然抱き締め、そしてあたしが抵抗を止めてから、時間にして少なくとも三分はあったと思う。


「本当は、ずっと昔から好きだったよ」
 そう言って、抱き締めていた腕をほといた稜は、あたしを見つめたが、あたしには、その目から、稜の告白が本当かどうかは見抜くことが出来なかった。
あたしに出来ることは、稜を疑うことだけだったんだ。

「何言ってんの?中学の頃あたしのことふったくせに……ずっと昔からって…あたしは8年間ずっと稜のことが好きだったんだよ…?あの夏振られても諦めきれずに好きだった。……稜が、色んな女の人と遊んでる間も、ずっと。しかもさっき冗談でキス…したじゃん。稜、昔言ったよね?“俺はマジで好きな女にはお互いが好きになるまでぜってー手ぇ出せねぇ”って。…キスしたってことは、あたしは今までの遊び相手と同じだったってことじゃん。…うそ言わないで」

そう言うと、稜は、ずっと下を向いていたけど、突然何を思ったのか、立ち上がり、すると何も言わずに玄関を開けたから、結局自分だけ何も言わずに帰るんだと思ったら、開けたドアの地面に、うちの鍋が見えて、稜はそれを拾うと、勝手に靴を脱いで玄関をあがり、勝手に台所へ進み、そして、勝手に鍋を火にかけると、再び玄関の方へ戻ってきて、今度はあたしの腕を掴み、稜は部屋の中にあたしをひっぱろうとした。

あたしは、稜が何を考えてるのか分からないままだったが、稜はひっぱる手を離さなかったから、靴で部屋にあがってしまわないように、慌てて靴を脱ぎ、腕をひかれるまま、稜についていった。




「ヒロくん、泣いてなかった?」

手を引きどこへ連れて行かれるのかと思ったが、稜は、リビングの椅子にあたしを座らせると、自分は台所へ行き、おでんが温まるのを待ってるようだった。
イマイチ稜の行動が分からなかったが、あたしはとりあえず、稜はおでんを食べさせようとしてくれてるのかもしれないと思い、静かに待っていたが、ふと、中園家を出てくる時のことを思い出し、台所で皿を準備する稜に問いかけた。

すると、丁度おでんも温まったのか、稜は、箸と皿と、鍋と鍋敷きを一気に抱えて、あたしの座るテーブルまで持ってきながら、そして答えた。


「大丈夫。ちょっと泣いてたけど、突然眠り出して、今は、かーちゃんが見てるはずだから。」


あたしは、食べるところまで準備をする稜の動きを見ながら、そして、皿に盛られたおでんを見ながら、そこにはやっぱり大根が置いてあって……あたしはそれを見ると、自分でも分からないけど、少し笑ってしまった。


何だか、あったかく感じてしまって。


「いだだきます」

よく分からないまま、それでもとりあえず、踊る湯気を眺めながら、あたしはおでんに箸をつけた。

すると、同時に、稜は、なぜだかあたしの頭を撫でだして、びっくりして箸を止めたあたしには、「食べてて良いよ?」と言い、最近は見なかった、昔の、あの優しい笑顔で、微笑んだ。
そして、稜は、話し出した。


「美鈴さ、初めてうちでおでん食った時、突然泣き出したかと思うと、泣きながらお母さんが作ってくれたおでんの話すんの。俺、そん時に、なぜか美鈴の頭なでながら、一緒に泣いちまったんだけど、俺は、その時から多分、美鈴のこと好きだったよ」


信じて良いのか分からないことを言う稜を見て、あたしは食べるのを止めたが、稜は、頭をなでる手を止めなかった。

「じゃあ…どうしてあたしが告白した時…好きって言った時、振ったの?あたしも、あの時、あの最初のおでんの日から稜のことが好きだったんだよ。その思いを死んじゃいそうなくらいの恥を捨てて言ったのに」


「あの時は…だってお前、突然言い出すから冗談だと思ったし、しかも俺が『美鈴が恋愛対象なんて有り得ねー』って言った時、「バーカ、冗談に決まってんじゃん。むしろ嫌いだってアンタみたいなアホ」って言ったじゃん。だから、美鈴は本当は俺のこと嫌いに思ってるって思ってたんだけど」

「そんなの…うそ、あたしあの時本気でへこんで、マジ泣きそうだったんだよ?でもアンタの前で泣きたくなかったから必死に我慢して……」




中二の、夏休み。
あたしが稜に告白したのは、二人でアイスを食べてる時だった。
あたしは、終業式の日に、稜が、稜と同じクラスの女子に告白を受けたと噂で聞き、だけどその時、あたしは稜とクラスが違ったから事実をなかなか聞けなくて、焦って告白してしまったんだ。


「あたし、稜のこと好き。」


それは、あたしなりに頑張りすぎるくらい恥ずかしいのを我慢しての一言だったんだけど、それを聞いて、稜はあっさり返事をしたんだ。しかも、かなり真面目な顔で。

「美鈴が恋愛対象なんて有り得ねー」

それを聞いた時、あたしは逃げ出してしまいたかったけど、とっさに出た一言が
「バーカ、冗談に決まってんじゃん。むしろ嫌いだってアンタみたいなアホ」
 で、もう絶対二度とコイツに恋心抱くもんか、って決めたのに、気付いたらやっぱりいつまで経ってもあたしは稜のことが好きで、稜のことが気になって。

それは中学三年の受験を向かえた時も続いてて、それを吹っ切るためにも、稜と違う高校を選んだのに。

家がお隣さんと、同じ市にある学校という事実が、いつまでもあたしの稜への思いを忘れさせてくれなかった。



「でも、何で?何で急に…キスなんかしたの?本気で好きなら手出せないんでしょ?」

すると、稜は、「あー…」と、突然溜め息をつき、そしてやっといつもの稜の笑顔で、頭をかきながら、言った。

「あー…それは。…俺さ、先週くらい?街に居る美鈴見たんだよね」

「先週?あーうん、居たね。……それがどうしたの?」

「どうしたのって…だって、お前、あの時男と居たじゃん」

「……?あー!キョウヘイのこと?」

「誰だよキョウヘイって」

「……クラスメイトだよ?今度うちらのクラスでパーティーするから、その時の買出しに行ってたの。……何?彼氏かと思った?」


そうやってあたしが笑って言うと、いつも通り、「そんなわけねーじゃん」とか言って笑われるかと思ったのに、稜は、予想外の反応をしたから、あたしは稜が愛しくてたまらなかった。

やっぱり、あたしはコイツが好きだ。

そう思った。


「街で男と二人っていったらどー見ても彼氏じゃん。何だよ…俺、美鈴が違う男と居んの、イヤで……。しかもかなり楽しそうに笑ってるしさー。あんな笑顔俺見たことねーんだけど。」

そうやって、拗ねた顔をした稜の顔が、ヒロくんがいじけた時の顔にそっくりで、あたしは笑ってしまった。


「そんな事言ったら、あたしは今までどれだけイヤな思いしてきたと思ってんの?どんなに嫌いになろうとしてもアンタが街で知らない女と歩いてたらあたし毎晩泣いてたんだよ。そんな思いも知らないくせに……行き成りキスとかしてこないでよ」

あたしは未だ、泣いていたけど、何だか色々な思いが衝突して、もう、多分、ここで、あたしは勝ったと思い始めていた。


目の前の皿に乗せられた大根は、きっともう冷えてるんだ。

だから、あたしはあえてその冷えた大根を箸に刺して、そして、稜に向かって言ってやった。

「あたしとおでんどっちがいい?」


「はぁ〜?そんな冷えた大根食べたくな…」

そういう稜に、あたしは、言い終える前に、稜の口を、塞いでやった。


勿論、唇で……じゃないけど。

だって簡単にキスしちゃうのは悔しいから、箸に刺したその大根で、ね。


でも、それで勝ったと思った私がバカだった。

「おっまえ!バッカじゃねーの?!そんな冷えた大根口に押さえつけるとか!冷てーよ!」


稜は、口に押さえつけられた大根を食べながら、「しかえし」と囁いて、あたしに二回目の、キスをしたんだ。

そんな稜の行動に悔しかったけど、あてられた稜の唇から、おでんの香りがしてきて、私は、また、笑った。




ねぇ、あたし、やっぱりおでんが好きだよ。

ムカつくけど、やっぱりアンタも好き。


だから、ねぇ、これからも、冬におでんを食べるのは、悔しいけどアンタとがいいかな。





end.





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